一般的な肺炎は細菌やウィルスなどの病原体が肺の奥にある小さな袋状の部分(肺胞、はいほう)に感染して引き起こす炎症ですが、過敏性肺臓炎はおもむきが異なります。過敏性肺炎では、それ自体は本来病原性や毒性を持たないカビ(真菌)や動物性蛋白質などの有機物、あるいは化学物質などを繰り返し吸い込んでいるうちに肺が過剰反応を示すようになり(これを「感作」と呼びます)、その後に同じもの(抗原)を吸入すると肺胞にアレルギー性の炎症が生じます。この炎症には抗原に対して選択的に反応するTリンパ球と呼ばれる白血球や抗体とよばれる免疫系の蛋白分子が深く関わっています。
抗原にさらされると強い炎症が生じ、発熱やせき、呼吸困難感、だるさなどの症状があらわれます。抗原の多くは患者さんの自宅や職場に潜んでいるため、その環境から離れると症状が軽快・消失し、再びその環境に戻ると悪化します。このような状態が続くと肺に線維化とよばれる不可逆的(もとにもどらない)な変化が生じ、抗原にさらされていなくても常にせきや呼吸困難感で悩まされることになります。
胸部エックス線検査や胸部CTでは肺全体にすりガラスのような陰影がひろがっています。血液検査で特定の抗原に対する抗体の有無を調べます。入院していったんよくなったあとで、疑わしい環境(自宅や職場)に戻ってもらい同じような症状が再び出現するかどうか調べることもあります。
治療の基本は原因となっている抗原を避けることであり、自宅の改築や転職を余儀なくされる場合もあります。症状が強い場合は入院してステロイド薬による治療をおこなうこともあります。
1)夏型過敏性肺炎
高温多湿になる夏季に発症しやすく、冬季にはみられません。風通しや日当たりが悪く湿気の多い古い家屋を好むトリコスポロンというカビが抗原です。秋田県や岩手県以北では稀です。
2)農夫肺
北海道や岩手県などの酪農家にみられ、干し草のなかの好熱性放線菌というカビが抗原です。
3)換気装置肺炎(空調肺、加湿器肺)
清掃を怠ったエアコン(空調)や加湿器に生じたカビ類を吸い込むことによって発症します。
4)鳥飼病
鳩やインコなどの鳥類を飼育しているひと、あるいはその周囲で暮らしているひとに発症します。抗原は鳥類の排泄物にふくまれる蛋白質といわれています。
5)職業性の過敏性肺炎
キノコ栽培業者がキノコの胞子を吸入して生じる過敏性肺炎やポリウレタンの原料であるイソシアネートを吸入して生じる過敏性肺炎などが知られています。